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コラム

 

 

日本人による英単語の発音の変化

 

 古くて新しい問題だが、英語音とその日本語への転写音について、いくつか綴ってみたい。

 年末になると悩ましいというか耳のあたりがもぞもぞしてくる。それは英語で書くとMusic Awardや... Awardのawardの発音だ。耳にするほとんどが「アワード」と発音されている。「アワード」と書かれているものさえ目にすることもある。ただ、2023年の晩秋、朝の民放のニュース番組でアナウンサーが「アウォード」と発音しているのを初めて聞いた。しかし、不思議なものである。古典的な映画、Star Warsは昔から「スター・ウォーズ」と発音されている。「スター・ワーズ」などと聞いたことは全くない。同じwarを含んでいるにもかかわらず、一方は「(ア)ワー(ド)」でもう一方は「ウォー(ズ)」。ネットで検索するとサッカーのJリーグでは、「Jリーグアウォーズ」と言っている。この表彰式は1993年からあるそうだ。ある意味例外に見えて、実はこちらが実際の英語発音に近い。このほかにも実際の英語の発音・綴り字と日本人が発音する英語の転写音との間には乖離が存在している。例えば、ジアスターゼdiastase、ジフテリアdiphtheria、ジレンマdilemma(アメリカ英語)がある。Disney Seaは、「ディ」と発音できる若者でさえ、Seaは日本語の「シ」の音で発音し、[s]の音では発音していない。

 「アワード」・「アウォード」問題は解消されていないが齟齬が解消されつつある場合もある。それは「ファースト」と「ファスト」だ。ハンバーガーなど注文後すぐに提供される食べ物を「ファーストフード」と長らく発音してきた。「ファースト」と長音を使うと英語にした時、本来の正しい発音のfastよりもfirstに近く聞こえる。野球の一塁は、1番目、firstなので「ファースト」と言って何の問題もない。『大辞林』第四版 (2019) によると、「ファースト〖fast〗の項に→ファスト」とある。「ファスト」の項には「ファスト○○」が6個あった。もちろん「ファストフード」も含まれている。「ファストフード」の意味説明は敢えてする必要はないと思われる。近年ではテレビ局のアナウンサーも「ファストフード」と発音するようになってきている。他に「ファストファッション」も挙げられている。これは比較的新しいものだろう。意味は、「最先端の流行をいち早く取り入れ、それを安く提供する衣料販売チェーンの業態。また、その衣料品。」となっている。「ファーストファッション」という発音は聞いたことがない。「ファーストフード」>「ファストフード」という変化があった。この変化を受けて「ファーストファッション」とならず、「ファストファッション」となったのだろう。

 大分、前置きが長くなったが、本題に入りたい。これらと同様の日本人による英単語の発音問題が筆者の職場で聞かれる。コロナ禍以前、会議といえば、大人数が1つの部屋に集まり行われていた。コロナ禍中はリモート会議ということで大人数で1カ所に集まることはなくなった。その代わりにMicrosoftのteamsが使われ始めた。teamsの発音が気になっている。本来なら国際音声字母を使って書くべきだが、敢えてカタカナで記す。teamsが導入されたあたりは、自分でも「ティームズ」と発音していて、そのような発音も耳にしていた。その後、しばらくすると「チームズ」に変わった。「紅茶」、特にミルクの入ったものを「ミルクティー」、レモンの入ったものを「レモンティー」と多くの人が発音している。(私が英語を習い始めたころ、塾で同じ部屋にいた私よりも年下の少年は、「ミルクチー」と発音していたが、これは例外であろう。大人で「紅茶」を「チー」と発音している人には出会ったことがない。)「紅茶」を英語で書くとteaと綴る。teamsの中のtea-と同じである。それにもかかわらず、「ティー」から「チー」に変化した。まれにスポーツなどをきっかけにできた集団を「ティーム」という人もいるがほとんどの人は「チーム」と発音している。「ティー」>「チー」変化の次の形態として、今職場では複数の同僚たちが「チームス」と発音している。とうとう濁音が清音になってしまった。これも日本的である。日本語で濁音が清音に変化した例は他にもある。日本のプロ野球チーム名にそれらは見られる。それぞれの語末のsの発音に着目してほしい。阪神Tigers「タイガース」や楽天Eagles「イーグルス」は清音。一方で横浜BayStars「ベイスターズ」、ヤクルトSwallows「スワローズ」、オリックスBuffaloes「バッファローズ」そして日本ハムFighters「ファイターズ」とこちらは濁音のまま。なぜ有声音の後の同じ綴り字sが清音になったり濁音になったりする揺れが存在するのだろうか。「ティー」が「チー」になるのは、現代標準日本語に「ティ」という発音がないからだろう。「チームス」と発音されるようになったことにより、teamsの日本語化は完結されたと思われる。この変化のスピードはかなり速かった。2020年の新型コロナウィルス禍を始点とするとほんの3年でここまで変化した。現在では「チームス」という記述も少ないながら見られる。一方、awardの変化は大分時間がかかったし、変化の途中とも言える。文字だけ見ていたらawardはまだしばらく「アワード」という発音のままだろう。

 以上、見てきたように英語音を日本語音へ転写しようとすると不規則なことがよくある。「ティームズ」>「チームス」から分かるように現代日本語においても言語変化は常に進行していることが分かる。誤りと捉えるか、変化と捉えるかは人により異なるが、いずれにせよ柔軟な思考が必要であろう。

 

参考文献

松村 明(編)(2019) 『大辞林』第四版 東京:三省堂.

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